
「ケースのフタを開けたら、デュビアが部屋のすみを歩いていた」――これ、デュビアを飼い始めた人がいちばん最初にやってしまう失敗です。僕も繁殖を始めて2ヶ月目に、洗濯機の裏から成虫を見つけて青ざめたことがあります。デュビアの脱走は、放っておくと家族との関係まで壊しかねない深刻なトラブルです。
この記事では、デュビア繁殖歴5年の僕が「脱走させない飼育環境の作り方」と「もし逃げてしまったときの捕獲法」を、実体験と失敗例をまじえて具体的に解説します。読み終わるころには、脱走の不安はほぼゼロになっているはずです。
デュビア飼育の全体像を知りたい方はデュビアカテゴリ一覧もどうぞ。
そもそもデュビアは本当に脱走するのか
結論から言うと、条件がそろえばデュビアは簡単に脱走します。ただし「どんな状況でも登ってくる」わけではありません。ここを正しく理解しておくと、対策がぐっとラクになります。
デュビアはツルツルの垂直面を登れない
デュビア(学名 Blaptica dubia)の最大の特徴は、ツルツルしたプラスチックやガラスの垂直面を登れないことです。ゴキブリの仲間なのに、これは意外に思うかもしれません。脚の先に吸着する構造が弱く、つかまる足がかりがない面では滑り落ちてしまうのです。
だからこそ、デュビアは「フタなし」でも飼えると言われます。実際、僕のメインコロニーは衣装ケースにフタを軽くのせているだけです。それでも5年間、ケースの内壁を登ってきた個体は一匹もいません。
では、なぜ脱走が起きるのか
脱走の原因は「壁を登れるようになってしまう状況」を、飼い主が知らずに作ってしまうことです。よくあるのは次の4つです。
1つ目は、内壁の汚れです。フンや餌のカス、デュビアが出す分泌物が内壁にこびりつくと、そこが足がかりになります。2つ目は結露です。加湿しすぎたケースの内壁に水滴がつくと、表面がザラついて登れるようになります。3つ目は床材やシェルターの積み上がりです。卵パックや床材が壁ぎわで高く積もると、デュビアはそれを階段にして縁まで到達します。4つ目は、成虫オスの存在です。デュビアのオスは羽を持っていて、日本の飼育環境ではめったに飛びませんが、驚いたときに数センチだけ跳ねるように動くことがあります。縁の近くにいると、その勢いで外に出ることがあるのです。
つまりデュビアの脱走は「デュビアが特別すばしっこいから」ではなく、「飼い主が登れる環境を作ってしまったから」起きます。逆に言えば、原因さえつぶせば脱走はほぼ防げます。
脱走させない飼育環境の作り方
ここからが本題です。僕が5年かけてたどり着いた「脱走ゼロ環境」の作り方を、順番に紹介します。
ケースは「ツルツル・深め・フチが内側に折れている」ものを選ぶ
まずケース選びが9割です。おすすめは、半透明のプラスチック衣装ケース。内側がツルツルで、深さが30cm以上あり、フチが内側にカールしているタイプが理想です。フチが内側に折れていると、万が一縁まで来た個体も外に出られません。
逆に避けたいのは、内側にリブ(補強の凹凸)があるケースです。あの凹凸はデュビアにとって完璧なハシゴになります。買う前に手を入れて、内壁が完全にツルッとしているか確認してください。
フチに「すべり止めバリア」を作る
ケースの内側のフチ、上から3〜5cmの位置に、ぐるりと一周バリアを作ります。方法は2つあります。
ひとつはワセリンです。指でうすく塗るだけで、デュビアはそこから先に進めなくなります。ただし時間がたつとホコリを吸って効果が落ちるので、月1回は塗り直します。もうひとつはベビーパウダー(タルク)を木工用ボンドで貼りつける方法です。手間はかかりますが、一度作れば数ヶ月もちます。僕はメインケースはベビーパウダー、サブケースはワセリンで使い分けています。
結露を作らない
デュビアは乾燥ぎみの環境を好みます。湿度を上げようとして霧吹きをしすぎると、内壁が結露して登られます。水分は「給水ゼリー」や「野菜・果物」で与えれば十分で、ケース内に霧吹きをする必要はほぼありません。これだけで結露由来の脱走は完全に防げます。
シェルターと床材を「壁から離す」
卵パックは立てて入れる人が多いですが、壁にぴったりつけて立てると、その紙の表面を伝って縁まで登られます。卵パックはケースの中央寄りに、壁から最低でも3cmは離して配置してください。床材を入れる場合も、壁ぎわに山ができないよう、ときどき平らにならします。
フタとコードの隙間をなくす
フタをする場合は、通気用の網目が細かいものを選びます。プリンカップに穴を開けたような大きな穴だと、SSサイズの幼虫がすり抜けます。また、加温用のヒーターのコードを通すために少し隙間を開けている人は要注意です。その隙間は幼虫にとって十分な脱出口になります。コードはフチのバリアより内側を通すか、隙間をスポンジで埋めてください。
もし脱走してしまったら――捕獲の方法
どれだけ対策しても、ケースの移動中やメンテナンス中に数匹こぼれることはあります。あわてず、習性を利用して回収しましょう。
デュビアは「暗くて狭くて暖かい場所」に隠れる
脱走したデュビアは、部屋の中をうろうろし続けることはありません。夜行性なので昼間は動かず、暗くて狭いすき間にじっと潜みます。具体的には、家具の裏、家電の下、段ボールのすき間、カーペットの端などです。冬場は暖かい家電(冷蔵庫の裏、テレビの裏)の近くに集まりやすい傾向があります。
エッグクレート・トラップを仕掛ける
いちばん確実なのが「卵パックトラップ」です。脱走しただろうエリアの床に、卵パックを1枚置いておきます。中に、デュビアの餌(昆虫ゼリーや野菜くず)を少し仕込んでおくと効果的です。夜のあいだに、隠れ家を求めたデュビアが卵パックの中に入り込みます。翌朝、卵パックごとそっと持ち上げてケースに戻せば回収完了です。これを2〜3晩くり返すと、こぼれた個体はほぼ回収できます。
粘着トラップは「最終手段」
ゴキブリ用の粘着シートでも捕れますが、これだと回収した個体はもう使えません。餌用に増やしている個体を無駄にしたくないなら、まずは卵パックトラップを試してください。粘着トラップは「どうしても見つからない1匹」を相手にするときの最終手段と考えましょう。
増殖の心配はしなくていい
「逃げたデュビアが家の中で繁殖したらどうしよう」と不安になる人がいますが、結論から言うと、その心配はほぼ不要です。デュビアは熱帯性で、日本の一般的な室内では繁殖に必要な高温多湿を維持できません。チャバネゴキブリのように家屋内で勝手にコロニーを作ることはまずないので、落ち着いて1匹ずつ回収すれば大丈夫です。
僕の失敗談――洗濯機の裏のオス
繁殖を始めて2ヶ月目のことです。当時はリブ入りの安いケースを使っていて、フチのバリアも作っていませんでした。ある朝、洗面所で何かが動いた気がして見ると、成虫のオスが洗濯機の裏に逃げ込むところでした。
正直、血の気が引きました。家族に「ゴキブリ飼ってるの?」と言われたら、繁殖そのものを続けられなくなる。その日のうちにケースをツルツルの衣装ケースに全部入れ替え、フチにベビーパウダーのバリアを作り、卵パックトラップを3晩仕掛けました。結局、逃げたのはそのオス1匹だけで、3日目の朝に卵パックの中から回収できました。
この一件以来、僕は「ケース選びとフチのバリアだけは絶対に手を抜かない」と決めています。脱走対策は、起きてから慌てるより、起きない環境を最初に作るほうが100倍ラクです。
よくある質問
フタは必ず必要ですか?
ツルツルの深いケースで、フチのバリアもあるなら、フタは「軽くのせる程度」で十分です。むしろ密閉しすぎると蒸れて状態が悪くなります。通気を優先してください。ただし小さなお子さんやペットがいる家庭では、いたずら防止のために網目の細かいフタをおすすめします。
SSサイズの幼虫が網の目をすり抜けます
生まれたての幼虫は数ミリしかありません。通気フタの網目が粗いとすり抜けます。対策は、フタの内側にキッチンの三角コーナー用ネットや、目の細かい鉢底ネットを一枚重ねることです。これで通気を保ったまますり抜けを防げます。
加温のためコードを通す隙間が必要です
パネルヒーターはケースの外側・底面に貼るのが基本なので、本来コードをケース内に通す必要はありません。どうしても内部に何か通す場合は、その隙間がフチのバリアより内側になるように配線し、すき間はスポンジでふさいでください。
まとめ――脱走対策は「環境づくり」が9割
デュビアの脱走は、デュビアが特別すばしっこいから起きるのではありません。飼い主が知らないうちに「登れる環境」を作ってしまうことが原因です。ポイントを整理します。
ケースはツルツル・深め・フチが内向き。フチには上から3〜5cmにワセリンかベビーパウダーでバリアを作る。霧吹きしすぎて結露させない。卵パックや床材は壁から離す。フタの網目は細かく、コードの隙間は作らない。この5つを守れば、脱走はほぼゼロにできます。
そして万が一逃げても、卵パックトラップで落ち着いて回収すれば大丈夫。家の中で勝手に増えることもありません。脱走対策をきちんとしておけば、デュビア飼育は「家族にバレない・部屋も汚れない」清潔な趣味として、長く続けられます。まずは今日、あなたのケースのフチを確認するところから始めてみてください。
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